本研究の目的は、肝膵同時大量切除における肝膵臓器相関と肝切除限界を明らかにせんとするもので、大きく2つの研究よりなる。 1. 臨床的検討:胆道癌15例に肝膵同時切除を施行した。膵切除術式は、膵頭十二指腸切除(40%膵切除)14例および膵体尾部切除1例であった。肝切除術式は、肝門部亜区域切除8例、2区域以上切除7例であった。術後肝不全は6例(40%)であったが、このうち5例は拡大2区域以上切除例(発生率100%)であった。肝不全死は3例(死亡率50%)でいずれも拡大2区域切除例(死亡率60%)であった。出血量5000ml以上、手術時間15時間以上の例に術後肝不全が発生しやすかった。以上より、2区域切除が術後肝不全を回避できる限界と考える。一方、拡大2区域切除1例および3区域切除1例の計2例が、頻回の血漿交換療法により術後肝不全より救命されており、的確な hepatic asist があれば3区域切除は可能である。 2. 実験的検討 : 雑種成犬を用いて、単開腹(脱血)群、40%肝切除群、および70%膵切除+40%肝切除群の3群を作成し循環動態について検討した。出血が皆無の膵切除後に全末梢血管抵抗の上昇、平均体血圧、心拍数、および左室1回拍出仕事量の低下、さらに門脈血流量が開腹時の約60%に低下していることが認められ、膵由来の液性因子の関与が示唆された。これに肝切除を加えると、肝切除単独ではみられなかった肺動脈楔入圧の低下、全末梢血管抵抗および肺血管抵抗の上昇、門脈血流量がさらに約30%にまで低下しているのが認められた。さらに、閉腹時には心拍出量は回復するが、門脈血流量は回復しないことが認められた。 肝膵同時切除ではそれぞれを単独で切除した場合よりも機能保持、再生機転ともに良好であることが報告されているが、膵由来の液性因子による循環動態の変化が肝血流量の低下を招き、術後早期の肝機能に大きな影響をおよぼすことが示唆された。
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