悪性脳腫瘍の治療成績は、脳神経外科学領域に於ける治療技術の進歩にもかかわらず、5年生存率が10%以下と低迷を続けている。この悪性脳腫瘍に対して、近年、密封小線源療法を適用し、従来の治療方法に比較しより良好な治療成績を得たとの報告がなされ、注目を集めているが、脳腫瘍に対する密封小線源療法の至適条件については未だ不明の点が多い。この至適条件の解明を研究目的とし、ラット正常脳に対しIrー192seedを用いた実験モデルで、1)密封小線源療法による正常脳組織の耐容限界の決定、2)脳腫瘍モデルに対する本治療法の効果の検討、3)本治療法による末梢血リンパ球サブセットの変化の検索、を行なうことを研究課題にあげている。 このうち、現在は、平成元年度より継続して、主に正常脳組織に対する密封小線源照射の影響につき検討している。当初、Irー192seedリボンを脳内に直接刺入していたが、線源の紛失予防の観点から小カテ-テル内にseedを封入する方法に変更した。カテ-テルは、刺入・抜去に伴う侵襲を最小限とし、また充分な照射線量を得るためseedが並列に2個封入できる外径1.2mmのポリエチレン製カテ-テルを成形し使用している。線源の刺入は、右大脳半球前半部(bregmaより3.0mm外側)に行なっている。現在のところ照射後6ケ月までの生存を確認しており、ラット脳に対する定位脳手術的小線源刺入法を用いた実験モデルを確立し得た。照射後の組織学的変化は、線源より3mm離れた部位の総線量が200Gyとなるように線源を留置し、照射終了後、2週間後、4週間後の組織を検討した。照射終了直後より高線量照射領域に壊死巣を認め、現在その壊死巣形成限界照射量の決定のため実験例数を増やし検討中である。また、より少ない照射線量(30〜60Gy)部位における血管組織の変化、特に血液脳関門の機能的変化をHRPを用いて検討中である。
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