研究概要 |
本年度は、臨床の低血圧麻酔に用いられている薬剤により維持された低血圧状態が脊髄にどの様な影響を与えるかという問題について、脊髄のautoregulationに注目し、脊髄血流量および脊髄誘発電位を用い検討した。 (方法)成熟家兎を用いGOE麻酔下に動脈圧をmonitourし、低血圧状態の作製にはPGE1、ニトログリセリンの二種薬剤を用いた。収縮期血圧を正常圧の30%低下状態に維持した後に薬剤投与を中止し、血圧回復後に再度50%,70%と順次低下させ脊髄血流量と脊髄誘発電位の変化を経時的に測定した。またPGE1を用いて30%,50%血圧を低下させた状態で脊椎に牽引を加え、牽引解除した後の変化を脊髄血流量と脊髄誘発電位について経時的に測定した。脊髄血流量はlaser doppler法を用い測定した。脊髄誘発電位はL4/5,Th9/10椎弓間に各々硬膜外電極を挿入し、上行性と下行性について記録した。刺激は閾値の3倍(以下3T)と最大上刺激(以下SUPRA)の二種類を用いた。 (結果)1.各低血圧状態において薬剤投与を中止すると脊髄血流量は回復するが、血圧の低下率によりその回復に差を認めた。つまり脊髄血流量の回復は30%低下状態ではコントロ-ル着にまで回復をみたが、50%,70%低下状態においては回復は認めたもののコントロ-ル値にまでは至らなかった。 2.脊髄誘発電位では、血圧の回復に伴って上行性では3T刺激の第一電位、第二電位の振幅は回復し、下行性では3T刺激、SUPRA刺激とも第二電位に振幅の回復傾向を認めた。 3.牽引操作を加えると各低血圧状態ではさらに脊髄血流量は低下したが、血圧の30%、50%低下状態について牽引解除後の回復を比べると、30%低下状態において良好であった。 4.脊髄誘発電位を用いて脊髄機能を評価すると、50%低血圧状態下では牽引を解除しても振幅の回復は低く脊髄は易損状態にあることが解った。また低血圧状態では第二電位の変化が脊髄血流量と相関したが、牽引という機械的操作を加えた場合には下行性3T刺激の第一電位も第二電位の振幅と類似した反応を示すことが判明した。 (本年度のまとめ)1.臨床では正常圧の30%低下させた低血圧麻酔が一般に行われているが、この範囲内の低血圧状態では脊髄に非可逆的変化は及ぼさないことが判明した。 2.脊髄誘発電位を脊髄機能のmonitouringとして利用するためにはfalse positive例を減少させることが必要であり、このためには強刺激だけではなく弱刺激による脊髄誘発電位の振幅変化をとらえることが必要である。
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