エストロゲンは生物学的作用と腫瘍増作用の面より興味がもたれる。エストロゲンは大きく、子宮、乳腺などの組織に増殖力の強いエストラジオ-ル-17β(E_2)とこれら組織への増殖のない、しかも作用する組織の限られたエストリオ-ル(E_3)とに分けられる。また、E_3の作用のひとつに、抗E_2作用をすることが知られてい、病学的に生殖器癌の予防的効果がある可能性も知られている。E_2やE_3にそれぞれ特異的なレセプタ-(E_2RとE_3R)が独立して存在することを明らかにしてきた。このような違いが、生殖生理、腫瘍内分泌においてどのように反映されているかを検討する。 1.ウサギの脳や子宮と比べ、下垂体ではE_3Rの方の含量が多い。ウサギ子宮で、抗エストロゲン剤であるクロミフェンやタモキシフェンは、E_2RよりE_3Rに約2倍の強い親和性を示した(Ki=1.8×10^<-9>M)。下垂体へのE_3の作用の重要性と、抗エストロゲン剤の下垂体への作用の優位性とが考えられる。 2.ヒト生殖器由来の細胞では各種スチムラントにより、細胞膜を介する現象が惹起される。たとえば、子宮内由来線維芽細胞に対するエンドトキシン刺激によるプロスタグランディン系や卵巣顆粒膜細胞に対するLHーRHによるイノシト-ルリン脂質系などにE_2は増幅作用を示す。ところがE_3はこの作用を示さないことから、E_3とE_2との作用発現機構は異なる面を有していると考えられる。
|