エストロゲンは女性生殖器の他、神経系、血管系、筋、血液系にも影響を与えている。これらの影響は細胞増殖と細胞機能分化の結果と考えられる。エストロゲンには細織増殖力の強いエストラジオ-ル17β(E_2)や組織増殖性の少ないエストリオ-ル(E_3)があり、両者に作用発現機構の違いがある。またE_2は体癌へのリスクが高いがE_3は逆効果を示している。これらエストロゲンは核レセプタ-を介して主に作用を示すが、本研究はこれらの現象を分子生物学的に解明することを目的としている。(1)エストラジオ-ルー17βとエストリオ-ルとの結合部位(R)がウサギ、ヒト子宮に独立して存在することを明らかにした。さらにウサギ性器外組織である脳、肝、腎、血管にE_2R、E_3Rが分布している。ウサギではこれらE_2R、E_3RはE_2によって主に誘導される。脳や子宮と比べ、下垂体ではE_3Rの方が含量が多い。子宮で抗エストロゲン剤であるクロミフェンやタモキシフェンは、E_2RよりE_3Rに約2倍の強い親和性を示した。これらのことから、E_3の下垂体への作用の重要性と、抗エストロゲン剤の下垂体E_3Rへの作用の優位性とが考えられる。ウサギの心血管系、骨格筋でのE_2R、E_3R量に雌雄差や部位別差が生しており、これらが心血管疾患の発症部位差、骨格筋の発育に男女差の生じることと関連する。エストロゲン依存性発育する腫瘍に対して、増殖抑制作用をする黄体ホルモン剤酢酸メドロオキシプロゲステロンはウサギ子宮で抗E_2作用を発揮し、E_2RやE_3Rを減少させる。(2)正常組織間では腟〉体部〉頸部の順にE_3Rの優位性が認められた。正常組織ではE_2RとE_3Rの比は約2倍であるが体癌ではE_2Rの4〜6倍のE_3Rが検出された。また頸部のE_3RはE_2Rの約8倍に検出され、しかも他の正常組織に比し優位に高値を示した。E_3Rが腟に特異的に存在していることはE_3の腟への作用を指示するものである。また、E_3類似体の抗腫瘍性を探ることも可能である。
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