周産期適応過程におけるエネルギ-代謝系の適応に関する動的解析

1990 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 01480402
• 研究機関: 東京女子医科大学
• 研究代表者: 武田 佳彦 東京女子医科大学, 医学部, 教授 (00033069)
• 研究分担者: 岩下 光利 東京女子医科大学, 医学部・母子総合医療センター, 講師 (30124936) ; 仁志田 博司 東京女子医科大学, 医学部・母子総合医療センター, 教授 (80104553) ; 中林 正雄 東京女子医科大学, 医学部・母子総合医療センター, 教授 (70114585)
• キーワード: 胎児低酸素症 / 胎内発育障害 / 脳内エネルギ-代謝 / 脳波 / 成長因子(IGFー1) / マルト-ス / ヘパリン療法 / 胎盤の物質輸送

研究概要

新生仔家兎に対する低酸素症負荷に対して埋込み固定電極より脳波を導出し、MRSによる無侵襲的エネルギ-代謝諸量との関連を求めた。脳波は10%O_2負荷後30分で徐波傾向を示しθ波優位となり、スパイク波も出現した。60分内の負荷後回復過程を検討したがクレアチン燐酸,脳内ATP,細胞内PHは負荷後30分で対照値に回復したのに対して、脳波は2時間後でも徐波成分優位の状態が持続し、細胞内のエネルギ-代謝との解離が認められた。このことは脳機能を表現する膜電位の回復遅延を示しており、細胞内代謝との関連をさらに追求する必要がある。
胎児への代謝源供給に対する成長因子の意義について臨床例では成長因子(IGFー1)の結合蛋白からの解離を促進するヘパリン投与をIuGRに施行した。ヘパリン、マルト-ス投与により遊離型IGFー1は著明に増加し、胎児の標準成長率に比較し150%の増加率を得た。しかしこの効果は胎盤循環に依存し、母体血ヘマトクリット40%以上の血液濃縮例には効果が少ないことを確認し、凝固能を抑制するためにアンチトロンビンIIIを加えたATIII,ヘパリン,マルト-ス混合投与で血液濃縮症例に対しても同様の効果を得ることに成功した。また新生児でのエネルギ-源としてのマルト-スの意義について非放射性同位元素を用い呼気中のCO_2産生をみたがマルト-スが充分代謝されることを確認した。
胎盤でのFGFー1の物質輸送系への効果について繊毛培養細胞を用いC^H glyein,C^4・methyl gluncoseの細胞内取り込み及び放出について検討した。いずれもIGFー1の用量依存性に取り込みが増加し、pronicub ation後の放出効果も同様と認められた。さらにその時間経過を観察すると、glucose取り込みは10分で、glycoseは30分でピ-クに達するのに対して放出はゆるやかに増加して120分でピ-クになることが判明し,この差が細胞内代謝と輸送とを表現するものと考えられた。

研究成果

• [文献書誌] 武田 佳彦: "子宮内発育・遅延(1)ーIUGRの病因と病態についてー" 小児の成長障害. 18. 16-20 (1990)
• [文献書誌] 武田 佳彦: "子宮内発育遅延(2)ーIUGRの管理と治療についてー" 小児の成長障害. 18. 21-25 (1990)
• [文献書誌] 武田 佳彦: "IUGRー概説ーIUGRの診断と治療 病因・病態・診断" ペリネイタルケア. 97. 1-1 (1990)
• [文献書誌] 岩下 光利,渡辺 正子,安達 知子,武田 佳彦,坂元 正一: "ヒト羊水Insulin like growth tactor結合蛋白の精製ー分子量16万の結合蛋白の存在についてー" 日本内分泌学会雑誌. 66. 636-648 (1990)
• [文献書誌] 安藤 一人,村岡 光恵,中林 正雄,武田 佳彦,坂元 正一: "極少未熟児のIRDS発症の産科学的背景" 日本界面学会雑誌. 20. 91-92 (1989)
• [文献書誌] Y.Takeda M.Nakabayashi M.Iwashita: "Intrauterine Treatment of the Growth Retarded Fetus" Jaurnal of Perinatal Medieine. 18. 108 (1990)
• [文献書誌] 安達 知子,岩下 光利,武田 佳彦,坂元 正一: "小児内科" 胎児発育に対する妊娠母体のInsulinーlike growth factorl. 1697-1700 (1990)
• [文献書誌] 岩下 光利,三室 卓久,中山 摂子,安達 知子,武田 佳彦,坂元 正一: "産婦人科治療" Insulinーlike growth factorー1(IGFー1)の胎盤に対する生物作用とその調節機序. 76 (1991)