研究概要 |
私達は妊娠直前または妊娠中に母親を免疫すると、仔動物の能動免疫能には種々の影響が及ぶことを報告してきた(Immunology.50,1983,Scand.J.Immunol.20,1984,Dev.Comp.Immunol.12,1988)。従来、妊娠中に母親が抗原刺激を受けると、新生児には母親より移行抗体が伝達され、それが代謝されるまでの間、児の抗体産生は開始されないとする報告が多い。私達は綿羊赤血球(SRBC)及び卵白アルブミン(OVA)等のT細胞依存性抗原で妊娠マウスを綿すると仔の能動免疫は生後長期間に亘り完全に抑制されることを報告してきた。 平成元年度において得られた成績として母親への抗原量を変量させ、体液性免疫及び細胞性免疫の誘導状態を各々分離または会合させたとき、この能動免疫能への影響を検討し、且つ主たる機能細胞の同定を試みた。その結果、母親に細胞性免疫が誘導されたとき仔の細胞性免疫が主として抑制された。又、母親に体液免疫と細胞免疫が誘導された場合、仔の体液性免疫と細胞性免疫の双方が抑制された。このことにより仔における免疫抑制が母親の免疫状態と密接な関連があることが判明した(Dev.Comp.Immunol.,1989,金沢医科大学雑誌,1989)。以上の点を母親側の免疫担当細胞レベルで作用細胞の同定を試みるため、妊娠中の母親間において免疫担当細胞の養子移行実験を行った。その結果、Tリンパ球の養子移入を受けると、IgMーPFCは強く抑制され、IgGーPFCも同様であった。Bリンパ球の養子移入の場合にも、IgMーPFCとIgGーPFCは強く抑制された。 以上の点を総括すると仔に細胞性免疫の抑制を誘導する母親の作用細胞はT細胞であり、又体液性免疫の作用細胞はT細胞とB細胞であった。現在、仔の細胞性免疫及び体液性免疫に抑制作用を及ぼす母親側のT細胞の異同について解析を進めている。
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