11番染色体上の単一遺伝子異常が測定されているマウスの内耳の機能・形態について研究を行っている。平成元年度の研究では、Auditory Brainstem Response(ABR)を用いた聴覚検査によって、当該マウスの高度の聴覚障害が同定された。蝸牛の微細構造の検討からは、感覚毛の正常な発達の障害、内・外有毛細胞の変性・消失が主要な形態学的変化であると判明した。また、その変性はクチクラ板において最初に出現した。前庭の形態異常は、球形嚢に最も早期にかつ高度に出現するが、卵形嚢・膨大部の感覚細胞にも変性・消失が観察された。前庭の微細構造上の特徴としては、加齢に伴う変化としてヒト・実験動物で観察される内部が空洞化するという耳石の変性がみられた。また、耳石の形態は正常であっても元素分析では、球形嚢においてはCaの存在が減少していることが判明した。さらに、変性を呈する感覚細胞質内には層状構造あるいは点状の細胞内封入体が同定された。この微細構造は他の実験動物ではアクチン由来として報告されている細胞内封入体の類似点がみられた。今後の研究のポイントとしては、蝸牛・前庭の細胞変性をきたす原因物質の同定の為に、神経細胞を構成する各種の物質に対する免疫組織学的研究を遂行することであると考えている。
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