難聴・平衡障害のモデル動物として、C3H/Heの突然変異で11番染色体上の単一遺伝子異常が判明しているマウス内耳の生理・形態的特徴について研究した。このマウスのABR(Auditory Brainstem Response)は出生10日より無反応であり、高度の聴覚障害が出生早期よりみられる。蝸牛の形態的特徴としては内・外有毛細胞の細胞体は成熟するにもかかわらず、外有毛細胞の感覚毛は正常形態を呈するまでにはいたらない。その後、外有毛細胞ついで内有毛細胞の変性が進行するが血管条は比較的良好に保存される。このマウスは首ふり・旋回運動・後退り・多動などの運動異常を示し、温水中では全て旋回しながら沈み、平衡障害の存在が想定される。中枢神経系の組織学的所見では前庭神経核以上には異常は同定されていない。前庭の組織所見では、生後10日でほぼ正常に発達した半規管・耳石器の形態を観察することができ、膨大部ならびに卵形嚢・球形嚢の感覚細胞の細胞体にも大きな異常はみられない。しかし、感覚毛の配列異常がみられる有毛細胞が観察される。出生15日後より球形嚢の感覚細胞は変性・減少し、球形嚢の耳石器も早期に変性・消失する。一方、卵形嚢の感覚細胞の変化は球形嚢よりは軽度である。このマウスの内耳形態異常はNeuroepithelialタイプに属するものと考えられる。また、単一突然変異遺伝子の表現型としての主要な内耳形態異常が、感覚毛を含む感覚細胞頂部の表面構造の変化であることが想定される。
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