研究概要 |
歯周病の主要な病原菌の1つであるPorphyromonas gingivalisの精製線毛タンパクに対するヒト歯周組織における免疫応答性,すなわちサイトカイン産生ならび抗線毛抗体産生のメカニズムの一端を明らかにするために以下の研究を実施し結果を得た。 1)歯周病患者歯肉中の単核球細胞(GML)の培養上清中に明確なインタ-ロイキン(IL)ー5やILー6およびTGFーβ産生を認めたが,ILー2やILー4産生は認められなかった。また、健康者の末梢血単核球細胞にGML培養上清を加え培養すると,IgG>IgA>IgMの順に抗体産生細胞故が増加し,GML培養上清中に抗体のクラスイッチ誘導因子が存在することを明らかにした。 2)歯周病患者血清中には,抗P.gingivalis線毛抗体価の著明な上昇が認められるが,同抗体の産生起源について,ELISPOT法を用いて患者の炎症歯肉組織ならび同患者の末梢血中の抗原特異抗体産生細胞の消長について検討した。その結果,患者の炎症歯肉組織中には,IgG>IgA>>IgMの免疫グロブリンのパタ-ンの順に抗線毛抗体産生細胞が認められた。しかしながら,同患者の末梢血中の無利激単核球細胞には抗原特異抗体産生細胞はみられなかった。また,非炎症側の歯肉組織中にも同特異爾体産生細胞はみられず,P.gingivalisに対する特異免疫応答は,きわめて局所的であることが示唆される。 以上の結果から,P.gingivalisの歯周局所への感染にさいして,同菌の菌体表層成分の1つである線毛に対する特異免疫応答が発動し,その作用は炎症組織にきわめて限局したものであると考えられる。併せて免疫生物圧的観点から,P.gingivalisが成人性歯周炎に深く関わっていることを示したものである。
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