研究概要 |
本研究の目的は、歯や骨などの硬組織の形成や吸収に関与する各種細胞の機能変化を、細胞内プロテア-ゼとの関連性において検索しようとするものである。その目的で、まず前年度に引き続いて、ラット脾臓と肝臓およびヒト血液細胞を材料にして、通法によりアスパルティックプロテア-ゼのカテプシンDとE,システインプロテア-ゼのカテプシンB,HとL,セリンプロテア-ゼのエラスタ-ゼ様酵素Xダラシンを分離精製した。さらにこれらの酵素に対する特異抗体を家兎で作成した。歯周疾患は多くの場合歯槽骨の吸収を伴うのであるが、この様な骨組織の吸収が炎症経過におけるどの段階で発現してくるのかについては殆んど明らかではない。我々は、歯周疾患を病理学的な骨吸収の代表として、炎症進行過程における歯肉溝浸出液の各種プロテア-ゼ活性を測定することにより、炎症過程と各種プロテア-ゼの関係を推定し、さらに骨組織の破壊過程を考察することを試みた。その結過、カテプシンB,H,L,は病勢に対応して変動することや、エラスタ-ゼ様酵素のメダラシンは活性としては検出されないが、インヒビタ-と結合した型で病態の進行と密接に対応して変動することを確認した。また今回の新たな知見として、ラット好中球にはヘモグロビン水解活性を示す酵素としてカテプシンDとEが存在しているが、ヒト好中球ではカテプシンEに代って至適pHを3.8付近とするユニ-クなセリンプロテア-ゼが存在することが示された。これらの酵素が骨吸収の場で、どの様な働きをしているかはなお不明であるが、酵性状態で活性を示す酵素のうちカテプシンDが硬組織由来のすべての細胞に見出されるのに比べて、カテプシンEは破骨細胞の刷子縁部分に局在する事や、この酵素がコラ-ゲンの分解能を示す事などから、特にカテプシンEの骨吸収部位での積極的な役割が注目される。
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