本研究の目的は、顎関節症の本態を解明するためにMRI、咀嚼筋筋電図(EMG)および三次元咬合力を測定し、形態と機能の両者から顎口腔系を分析することにある。特に本年度は、顎口腔系の最終出力である三次元咬合力と咀嚼筋筋電図の対応関係を分析した。はじめに三次元咬合力および咀嚼筋筋電図を、被検者に中心咬合位で上方、左・右側方および前・後方への5秒間の中等度のクレンチを10回ずつ行わせて測定したところ、上方クレンチでは左右側咬筋の筋活動量が最も大きく、咬合力ベクトルの垂直成分が著しく大であった。一方、左・右側方クレンチでは、クレンチ方向と同側の側頭筋前腹の筋活動量が著明に増加し、咬合力ベクトルもクレンチ方向側へ移動した。後方クレンチでは側頭筋後腹の筋活動量が増加し、前方クレンチでは咬筋活動量が増加した。これに伴い、咬合力ベクトルの方向は各々、後方、前方へと移動した。これらの結果から、各々のクレンチによって咬合力の方向が規則的に移動し、また各咀嚼筋の筋活動量が変化することが判明した。 そこで咀嚼筋筋電図と三次元咬合力の関係を詳細に知るために、正常有歯顎者に咬合力の方向を前後的および左右的に規定したクレンチを行わせ、そのときの各咀嚼筋の筋活動量を同時分析した。その結果、咬筋活動量は咬合力の前方成分が増加するにつれて増大し、側頭筋前腹の筋活動量は咬合力の後方成分が増加するにつれて増大した。一方、側頭筋前腹では筋の同側方向のベクトル成分が、咬筋では反対側方向のベクトル成分が増加するにつれて、各々の筋活動量が著明に増大することが判明した。すなわち、咬筋と側頭筋前腹は咬合力の方向に対して相反的な役割を果たしていることが明らかになった。今後、これからの結果をMRI分析から得られる結果と併せて顎関節症患者に応用し正常者と比較検討する予定である。
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