前年度に続き第82、84回日本補綴歯科学会で報告した新設計法に基ずくパ-シャルデンチャ-を、部分的歯牙欠損症(特に下顎の両側性に大臼歯部の遊離端欠損症の後方の咬合支持の喪失症例)の外来患者を対象にして補綴的処置を行い咬合接触を回復し機能的、審美的回復後、生理学的に術前、術後の状態、また正常有歯顎咬合状態との比較を行っている。現在、特に歯周疾患による後方支持能力の喪失とその補綴処置による咀嚼運動路の変化、咀嚼筋群活動相互間の様相を筋電図学的に導出し、その活動時間的な協調性、活動量の変化等に関して松元の開発した補綴処置効果判定装置を使用し、収録症例数を増やしながら、解析処理を行い、その臨床的経過との相関関係を観察し、臨床的な観点から末梢神経入力の変化による咀嚼運動の変化を追跡している。特に歯牙欠損による二次的障害が進行し咬合平面の再構成、更に、顎位の変更、強いては顎機能障害に至った症例については、プロビジョナルデンチャ-による形而上学的、機能的咬合平面の回復を先行させ、患者の生体の呼応性を前群と同様に補綴処置効果判定装置を使用して観察し、術前術後の変化傾向とその安定性を確認した時点で処置計画を進めている。これまでに明確になって来た臨床的事象は以下の通りである。 1.残存歯列による咬合の不安定、特に後方の支持能力を長期的に欠いていた症例ではプロビジョナルデンチャ-により、咀嚼筋群相互の活動開始時間、協調性、活動量等が急速に改善されほぼ3カ月で安定してくる。 2.残存前歯群を前処置、義歯設計等により支持に加え機能的荷重を分散させることによりタッピング、咀嚼サイクル等の律動性が向上する。 3.咀嚼筋群の活動様相の変化と臨床的咀嚼感覚の間に相関が存在する。 4.後方の咬合支持回復による機能筋群の活動は、回復後可撤性義歯を離脱してもある程度の期間持続する等である。
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