これまで第82回、第86回日本補綴歯科学会、第4回International College of Prosthodontistsにて過去10年に亘る患者の経時的観察結果の一部を基に成果の概要を報告した。これまでの資料について、咀嚼筋活動の積分筋電値を左右側頭筋、咬筋について咀嚼の開始から終了までを、初期、中期、終期の三期に区分し、経時的にそれぞれのステ-ジ間での変化とステ-ジ内での筋間相互の協調性、咀嚼サイクル内の噛み締め、と噛み込みの筋活動電位の比率等、さらに残存対咬歯列と欠損部顎堤上に設定される有効床縁との関連性について解析を行い、対咬歯対欠損部顎堤指数(RI=1tanθ)が部分床義歯の設計上、特にその臨床的な予後の良否に関与し、長期的な咬合機能の安定には、この指数を2以下に対咬残存歯列、あるいは残存歯列間の咬合状態を改善、修正する必要がある事が明確になった。このことは臨床的には、所謂Oral Rehabilitationを必要とする、主として先天的な既存歯列の咬合に問題が存在した症例と考えられる。これらの異常残存歯列の歯牙要素を有効に使用する臨床的手法としてオ-バ-デンチャ-による補綴処置が極めて有効な解決方法として考慮される。今後は部分床義歯による補綴処置の決定に際して残存歯列と対咬する欠損部顎堤の条件によって客観的な診断基準としてこの指標は研究教育上有効に使用できる事が明白になった。以上の概略をまとめると以下のようになる。1 部分的な歯牙欠損症に対して補綴処置を行う際に、欠損部に対咬する残存歯の支持咬頭と欠損部顎堤上に設定される床外形によって構成される有効支持能力の重心の位置的相互関係が極めて重要な診断要素となる。2 これらは咬合平面、咬合高径、の決定咬合様式の付与、さらに残存歯列の歯冠補綴による臨床歯冠形態の修正、あるいは顎位の再構成の必要性に対する客観的論拠となる。3 さらにオ-バ-デンチャ-の必然性を立証した事になる。
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