2ー6キシリジンとNメチルイミノディアセチック酸とから合成したリドカインのカルボン酸誘導体をメチル、エチル、ブチル、イソブチルの各々のアルコ-ルと反応させ、エステル誘導体を合成した。これらのエステル誘導体はリドカインに比べて、その側鎖の炭素数が増すごとに作用時間が延長することは既に報告した。今回は神経膜モデルとして、Egg Yolk lecithinを用い、核磁気共鳴装置(NMR)を使って、合成した局所麻酔薬分子とリン脂質二重膜との近接状態を検索した。この結果、リドカインはその分子構造中で正電荷を有するNーエチル部分の窒素原子がリン脂質二重膜の親水性部分と結合することがわかった。また、我々が合成したリドカインのエステル誘導体ではこの窒素原子に加えて、エステルカルボニル部分の酸素原子でも膜との近接が認められた。加えてこの近接の程度はメチル、エチル、ブチルとエステルアルキル部分の長さに依存して増大することも明らかになった。従前我々は、リドカインのエステル誘導体とくにブチルエステル誘導体はその作用時間がリドカインの3倍近くに延長している理由として、分配係数と蛋白結合能が高いことを挙げたが、今回の研究で神経膜モデルと2ケ所で静電結合を起こすことから、作用持続時間の延長をもたらすものと考えられる。また、今回得られた結果は従来成書に記されていた局所麻酔薬と神経膜あるいはNaイオンチャンネルとの結合はベンゼン核部分で起こるとする説と異なり、局所麻酔薬分子の両端は比較的自由に運動し、分子構造中央部分の窒素原子と膜との結合を立証するものであり、局所麻酔薬の作用機序を見直すことにもなるであろう。すなわち、局所麻酔薬は直接受容体と結合するのではなく、その周囲にあるリン脂質膜と静電結合し、結果的にNaイオンの通過を阻止している可能性がある。
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