2ー6キシリジンとNメチルイミノディアセチック酸とから合成したリドカインのカルボン酸誘導体をアルコ-ルと反応させ、メチル、エチル、ブチルのエステル誘導体を合成し、その薬理学的特性が側鎖の置換基によってどのように変わるかについて検索を行った。この結果、メチル、エチル、ブチルと炭素数が増すごとに作用持続時間が延長することがわかった。また、解離定数はリドカインに比べて一般に小さくなり、ブチルエステルが7.5と最も小さく、作用発現までの時間が短かった。分配係数でもエステル誘導体は一般にリドカインより高く、ブチルエステル誘導体でリドカインの6倍であった。従って脂溶性が高く、麻酔作用が強いこともわかった。タンパク結合能ではリドカインの52%に比べてブチルエステルが最も大きく、89%でほぼブピバカインに匹敵することがわかった。また、レシチンを超音波処理して得られるリン脂質二重膜を神経膜モデルとして、リドカインとモデル膜との分子レベルでの相互関係を核磁気共鳴装置を用いて検索した。この結果、リン脂質二重膜の親水性部分とリドカイン分子中で正電荷を有するNーエチル部分の窒素原子との間にイオン的近接が認められ、リドカイン分子のベンゼン核とアルキル部分は比較的自由に動いていることが分かった。一方、我々が作用時間の延長を目的に合成したリドカインのカルボン酸エステル誘導体ではNエチル部分での近接に加えて、エステルカルボニル部分の間にも静電結合が認めらめた。さらに、この近接の程度はメチル、エチル、ブチルとエステルのアルキル基部分の炭素数が増すごとに増大することが分かった。このように局所麻酔薬の作用持続時間と神経膜モデルとの近接の程度とが相関することは、新しい、理想的な局所麻酔薬を開発する上で大いに参考になると考える。また、局所麻酔薬の作用機序を見直すことにもつながると考えている。
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