齲蝕予防の目的でフッ素を使用する場合も、もっとも重要な事は食品中の同元素の生体内での吸収率や代謝を知る事である。それれらの解明によってフッ素の安全量を正確に知る事が出来る。しかし食品からの利用率は個々の食品によって異なるし、食品の嗜好や代謝に個体差がある。生体内に吸収されたフッ素は短時間のうちに硬組織に吸収される。つまり歯牙はフッ素の捕集器官であると考えられる。従って、歯牙中のフッ素は生体での同元素の利用率、代謝率等を総合的に反映しているものと考えられる。 本研究では生体でのフッ素の吸収率や代謝の指標として歯牙中のフッ素量を測定する事を目的として、実験を行った。実験に用いた歯牙は、ドナ-の生年1900年〜1970年で抜歯時の年齢が20才代の第三大臼歯、約600本について、エナメル質表面および歯冠部象牙質のフッ素量を測定し、フッ素の含有量を測定した。また、年々のフッ素量の推移を調べた。また、抜歯時の年齢が10〜60才の小臼歯について、加齢によるフッ素量の変化を併せ調べた。本研究をはじめるにあたってまず、簡便で精度の高い微量フッ素の定量法の開発を行った。これはフッ素の捕集効果を高める目的で、材質としてテフロンを用い、高温下でフッ素の拡散を行う事によって試料の分解と回収率の向上を計ったものである。その概要はスクリュウ付きの金属のフレ-ムによって上下の金属板でテフロン製の拡散装置を圧接して容器の密閉を保つ構造を取っている。現在開発をほとんど終了し、本実験の歯牙のフッ素の分離に利用している。第三大臼歯のフッ素はエナメル質の表層で最も高くその内層では明らかにフッ素量は少なかった。1900年から1970年のフッ素量では次第に減少する傾向が見られた。1970年では1900年と比較して約25%減少していた。加齢によってフッ素量は増加した。
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