研究概要 |
この研究によりマウスにおけるX染色体不活性化に関与する因子について二、三の興味ある知見が得られた。(1)不活性X染色体を持つECC株MC12に特有な2.5kbのcDNAクロ-ン121aは残念ながら不活性化には関与しないことが明らかになった。しかしながらin situ hybridization法によって調べたところ、卵筒胚とそれ以降の中胚葉に限って発現することが判明した。121a遺伝子は第6染色体のB1バンドにあり、中胚葉形成という発生上重要なプロセスに働く新しい遺伝子である可能性があるので今後もその正体を究明する必要がある。(2)Brown et al.(1991)はヒトで既知の不活性化センタ-領域にマップされ、しかも不活性Xでのみ発現する遺伝子XISTを見いだした。その後マウスの相同遺伝子XistのcDNAが部分的にクロ-ン化されたが、その実態はまだ不明なので我々もPCR法を利用してそのクロ-ニングに努めたがまだ成功に至っていない。(3)XistのORFが翻訳されるとすれば、その産物は不活性化のいずれかの段階でトランスに効く事も考えられる。そこで、Xistの発現がないMC12由来のc1.10とそれを発現している親株MC12との融合実験を行ったがX染色体には全く変化が認められなかった。Xistの発現のみでは活性Xを不活性化することは出来ないようである。(4)X染色体に対するインプリンティングの影響をRobertson型転座Rb(X.2)2Ad、相互転座T(X;4)37H,単為発生胚等を用いて検討した。受精後7.5ー8.5日目のX^MX^MYやX^MX^MX^P胚は胚体外部の発達が極端に悪く、単為発生胚と殆どおなじ異常を示した。これに反し、X^MX^PYの発育には異常は認められなかった。前者には活性Xが2本である細胞がかなりの頻度で認められた。おそらく、栄養外胚葉でX^Mが不活性化せず伴性遺伝子量が機能的に倍加したことが異常の主要な原因と推定した。また、この実験でX^MOとは違いX^PO胚の頻度が予測値よりも低い事も明らかになり、X^MとX^Pの違いがさらにクロ-ズアップされる展開になった。
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