マウスのSl変異は第10染色体に又W変異は第5染色体に変異をもち、共に造血細胞、皮膚色素細胞、生殖細胞、マスト細胞等に全く同様の多面的変異効果を及ぼす。これらの変異と細胞分化障害の関係を明らかにする事によって精細胞分化の過程に関与する遺伝子の働きを理解する事を目的とした。 Sld/+マウスの精巣及びその精細胞には+/+マウスに比して著明な変化はみられなかったが停留精巣中のA型精原細胞から新たに分化を行なわせると、+/+では完全な分化が行われ受精能のある精子が作られるのに比べてSld/+では分化障害が観察された。これを詳細に調べると、精細胞の分化障害は、A型精原細胞からの分化の開始と減数分裂の2段階に存在する事が明らかとなった。又Sld/+変異では停留精巣条件下ではSertoli細胞に障害を受け易く、その結果未分化A型精原細胞の維持が困難となり、Sld/+では+/+に比してその数が著明に減少する事が明らかとなった。 これらの障害が原因となり、Sld/+変異の停留精巣では、+/+と異なり、陰のう内へ精巣をもどしても精細胞の分化は回復せず、精巣の重量増加もほとんど見られず又妊孕性の回復もおこらない。 これらの結果から、Sl遺伝子は精細胞の維持とその分化過程、特にA型精原細胞からの分化の開始点と減数分裂の過程に何等かの重要な役割をはたしているものと考えられる。 最近W遺伝子はOncogeneのc-Kitそのものである事が明らかとなった。c-Kitはtyrosine kinase活性をもつreceptor構造を示す事からW変異と類似のphenotypeを示すSl変異は、このreceptorに対するligandの変異であると考えられる。そこでSl遺伝子産物の精製を行い、ligand-receptor相互作用を調べる事により、ここに示したさまざまな細胞分化のメカニズムを理解できるものと考えられる。
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