平成元年度の研究計画は、歩行異常、小脳・大脳皮質の形態形成不全を示すミュ-タントラット{creeping(cre/cre)}の 1.表現型の発現時期を明らかにすること、2.遺伝的支配様式を明らかにすることであった。これら二つの目的に対して次に述べる新たな知見が得られた。1.胎令14日では正常個体とホモ個体(cre/cre)を組織学的に識別することができなかった。しかし、胎令16日のcortical plateは正常個体で細胞が規則的、かつ密に集合していたのに対して、ホモ個体では、細胞配列が不規則であり、その密度も低かった。胎令18日では正常個体において最表層に分子層が形成され始めるのに対し、ホモ個体は分子層を認めることができず、両者の違いがより明瞭となった。胎令20日ではホモ個体の大脳皮質は厚さが薄く、分子層は認められず、多くの細胞が中央部に位置したままであり、その密度は低い。また、海馬の細胞配列もすでに不明瞭であった。一方、小脳は生後3日令で正常個体の小脳に認められる小葉の形成が、ホモ個体では認められなかった。さらに、外顆粒層細胞の内方への移動は、正常個体では21日令以前にほぼ終了しているのに対し、ホモ個体では21日令においてもまだ外顆粒層に多くの細胞が存在していた。また、尾曲がり(crooked tail)は尾椎の形態形成異常に起因し、胎令18日以降のホモ個体に認められることが明かとなった。2.ヘテロ(+/cre)と判定した雌雄と正常系統の雌雄とでF_1および戻し交配を実施した結果、さらに、ヘテロと判定された雌雄での交配結果から、creepingラットの形質は常染色体性劣性遺伝子の交配を受けていることが明かとなった。なお、尾曲がりと歩行異常あるいは脳形成不全が一致して認められた。このことは、尾曲がりはcre遺伝子の多面発現作用よることを強く示唆している。
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