平成元年度に、小脳形成不全ラット(creeping rat)の形質は常染色体劣性遺伝子(creと仮称)によって支配されていることを明らかにした。さらにホモ(cre/cre)個体のすべてに尾稚の形態形成異常に起因する尾曲がりが確認され、cre遺伝子の多面発現作用もしくは遺伝的に強く連鎖していることが考えられた。平成2年度にはcreepingラットにおける22の生化学的遺伝子座の対立遺伝子を明らかにした。今年度はそれらの標識遺伝子を用いて、cre遺伝子の遺伝的解析を行った。 交配実験はBN系統とcreepingラットのヘテロ(cre/+)(cre/cre個体は繁殖能力を欠く)間で実施した。F1(すべて正常)のなかから後代検定によりcre/+を選別し、それらをcreepingラットのヘテロ(cre/+)に戻し交配して得られた仔ラットについて、リンケ-ジ検索を行った。その結果、cre遺伝子は第II連鎖群に属するRtpー1と弱い連鎖関係にあることが明らかとなった。さらに、cre遺伝子はXdhー1(連鎖群が不明)とも弱いながら連鎖していた。これらのことから、cre遺伝子は第II連鎖群に属することが示唆された。今後、第II連鎖群にはAconー1、PgdならびにPgmー1などの標識遺伝子が存在するので、これらの標識遺伝子を用いてより詳細な解析を計画している。今回の交配実験から得られた仔ラット(72匹)のなかに、尾曲がりが認められるが小脳形成不全を伴っていない個体が一匹確認され、cre遺伝子と尾曲がり(尾椎の形態形成異常)を支配する遺伝子とは別で、お互い強く連鎖していることが明かとなった。このことは今後、cre遺伝子の作用機構あるいは第II連鎖群での位置など明らかにする場合に有用な遺伝的情報となる。
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