我々の研究室で発見した歩行異常、小脳および大脳皮質の形態形成不全を示すラット(creeping rat)の形質は交配実験の結果、常染色体性劣遺伝子(creと仮称)によって支配されていることが明らかとなった。ホモ(cre/cre)個体の小脳では、3日齢で正常個体の小脳に認められる小葉の形成が、28日齢に達しても認められなかった。さらに、外顆粒層細胞の内方への移動は、正常個体では21日齢以前にほぼ終了していたのに対して、ホモ個体では21日齢のおいてもいまだ外顆粒層に多くの細胞が存在していた。ホモ個体小脳のプルキンエ細胞はその大部分が28日齢になっても内顆粒層と白質内に散在し、かつ樹状分岐がほとんど認められなかった。GFAP陽性細胞は21日齢のホモ個体小脳の散在し、細胞数も正常個体に比べ増加していた。さらに、GFAF陽性細胞のprocessは厚く、かつ不規則に分岐していた。しかし、このprocessは28日齢のホモ個体では薄くなっていた。これらのことから、creepingラット小脳に認められる形態形成異常は、発生、分化段階におけるプルキンエ細胞、顆粒細胞など神経細胞の移動障害によるものと考えられる。一方、ホモ個体のすベてに尾椎の形態形成異常に起因する尾曲がり(crooked tail)が認められ、胎生18日目以降でそれを確認することが明らかとなった。 BN系統とcreepingラットのヘテロ(cre/+;cre/cre個体は繁殖能力を欠く)を用い、F1(すべて正常)およびBF1を作出し、12の生化学的遺伝子座を標識としてcre遺伝子座のリンケ-ジ検索を行ったが、いずれとも連鎖していなかった。今回の交配実験から得られた仔ラット(72匹)の、尾曲がりが認められるが小脳形成不全を伴っていない個体が1匹確認され、cre遺伝子と尾曲がり(尾椎の形態形成異常)を支配する遺伝子(crooked teil:遺伝子記号crtと仮称)とは別で、お互い強く連鎖していることが明かとなった。
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