研究概要 |
(1)StreptomycesSubtilisinlnhibitor(SSI)とSubtilisinとの複合体の1.8A分解能での構造の精密化を行った.SSIがSubtilisinと結合すると、SSIの構造のある特定の部分(全体ではなく)のflexibilityが減少する。このflexibilityの減少は、Subtilisinと直接的に接触している“reactivesite"segmentだけではなく、このsegmentと共有結合またはvanderWaals接触によって隣接しているにすぎないsegmentsにも見られる。以上のように、複合体を形成することにより、Subtilisinの活性中心と直接接触する反応部位だけでなく、その周辺のポリペプチド鎖もリジッドになることが分かった。即ち、複合体形成に伴うSSI分子の硬化(rigidification)は分子全体に均一に起こるのではなく、局在化しているが、その部位は必ずしも標的酵素Subtilisinと直接接しているところとは限らないことが、はっきり示されたわけである。 (2)さらに遺伝子工学的手法によりSSIの反応部位P1(Met73)、P4(Met70)をそれぞれLys,Glyに変換した2種の変異SSI(Met73Lys)、(Met73Lys,Met70Gly)とSubtilisinとの複合体のX線解析を行った。SSIの反応部位P1及びP4のアミノ酸残基の変換により、Subtilisin側も静電的相互作用、vanderWaals接触などにより微妙に動くことが明かとなり、今後の蛋白質工学の指針となるであろう。 (3)上の述べた変異SSI(Met73Lys,Met70Gly)は、ウシのTrypsinとも複合体を作ることがわかった。そこで、この両者の複合体を作って結晶化した。このもののX線回折強度を、シンクロトロン放射光を使って測定し、分子置換法による解析を行った。その結果は、P1部位のLysの側鎖の正の電荷がTrypsinのS1ポケットのAsp189の負の電荷と直接水素結合を作っていることを示した。このように、ある一つの蛋白性インヒビタ-とプロテア-ゼとの複合体の構造が、2種類の全く異なる酵素、(SubtilisinとTrypsin)について解明されたことは、世界でも初めてのことであり、画期的的なことである。今後、更に両複合体の構造の詳細な比較を行いたいと考えている。
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