どのような機構によって神経細胞同士あるいは神経細胞と標的細胞との間で特異的にシナプスが形成されるかは脳神経系研究の中心課題の一つである。シナプス形成に伴って起こる遺伝子発現の変化がどのような分子によって担われているかを明らかにすることはシナプス形成の分子機構解明への重要な手掛りを与えるものと考えられる。我々は先に神経筋接合部のシナプス形成に伴って起こるシナプス後膜のアセチルコリン受容体の非シナプス型からシナプス型への転換はγサブユニットからεサブユニットへの切り換えに基づいていることを明らかにした。この成果を土台として、本研究計画では、γ-εSwitchを決定する因子を探るために神経筋接合部のシナプス形成とγ-εSwitchが起こる系をinvitroで確立することを目的とする。 ラット筋原細胞を初代培養し、筋管へと分化させる系を確立した。また、ラット筋原細胞株L_6およびマウス筋原細胞株C_2C_<12>を充分増殖させ、続いて低血清培地に移すことにより筋管へ分化させた。現在、これらの筋管とラット脊髄とを共に培養し、シナプスを形成させることを試みている。さらに上記の筋原細胞や筋管よりRNAを抽出し、クロ-ン化したラットアセチルコリン受容体サブユニットcDNAをプロ-ブとして、blot hybridization法によりアセチルコリン受容体の各サブユニットmRNAの発現を解析した。その結果、α、β、γおよびδサブユニットmRNAは筋原細胞から筋管への分化に伴って著しく増加するが、これに対してεサブユニットmRNAは殆んど発現されないことが明らかとなった。現在、分化培地でさらに培養を続けた筋管やシナプスを形成させた筋管からRNAを抽出し、解析している。
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