ラット筋原細胞株L6およびマウス筋原細胞株C2C12を充分増殖させ、続いて低血清培地に移すことにより筋管へ分化させた。この系においてはα、β、γ、およびδサブユニットmRNAは筋原細胞から筋管への分化に伴って著しく増加するが、これに対してεサブユニットmRNAは殆ど発見されないことが明らかになった。また、筋原細胞の分化に伴って導入したγサブユニット遺伝子の5´上流領域からの転写が著しく増加するのに対し、εサブユニット遺伝子5´上流領域からの転写は認められなかった。 そこで、よりvivoに近い系として、ラット筋原細胞の初代培養を試みた。20%牛胎児血清から10%馬血清へ移すことにより、初代培養筋原細胞は効率良く筋管へと分化し、さらに分化が進むと活発に収縮した。blot hybridization法で解析した結果、γサブニユットの発現が分化の初期から検出されたのに対し、εサブニユットの発現は分化の後期において始めて認められることが明らかとなった。したがって、部分的ながらアセチルコリン受容体のサブニユットの切り換えが起こる系をin vitroで確立することができた。 また、ウシアセチルコリン受容体のα、βおよびδサブユニットの組み合わせでも効率良くアセチルコリン受容体チャンネルが形成されることを見い出し、αβδーAChRと命名した。αβδーAChRはアセチルコリン存在下で非常に長い平均開口時間(53ms)を示し、アセチルコリン非存在下で自然発生的に開口するという興味深い性質を有していた。骨格筋発生の初期にはAChRγでは説明できない非常に長い開口時間を持つ受容体の存在が知られており、その生理的意義は不明であるがαβδーAChRのような不完全と思われる受容体も発生のある時期には実際に形成されている可能性があると考えられる。
|