研究概要 |
X線結晶解析の結果をもとにしてsiteーdirected mutagenesisの手段によって、大腸菌アスパラギン酸トランスアミナ-ゼ(AspT)の部位特異的変異体を多種作成し、反応機構の解明を目指して研究を続行した。 本年度はD_<222>,H_<143>,V_<39>を主な対象とした。D_<222>とH_<143>は起源の異るAspTに高度に保存されている残基である。D_<222>は補酵素ピリドキサル燐酸のピリジン環Nと水素結合できる位置にある。これをアラニンやアスパラギンに変えた酵素は活性が殆んど無くなるが、グルタミン酸に変えた酵素では20ー30%活性が残った。アラニンやアスパラギン置換体に基質アスパラギン酸を結合させた時の酵素の吸収スペクトルの解析から、反応の進行に必須の基質アスパラギン酸のαーHの引き抜きが障害されていることがわかった。ここに、222位には負電荷が必要で、これがピリジンNのpKaを上げて正に帯電させ、結合した基質のαー炭素から電子をひっぱり、αーHの引き抜きを助けることが明らかになった。同時に半反応の解析より、ピリドキサミン型とケト酸との反応の場合には222位に負電荷は必要ないという新しい知見を得た。 H_<143>はD_<222>の電荷の安定性に寄与し、反応に必須の残基であると信じられて来たが、アラニンやアスパラギンへの置換によって活性は殆んど影響されず、触媒作用に直接関与するものではない事が明かになった。 AspTは芳香族アミノ酸をも基質とする。X線解析にもとずくコンピュ-タ-グラフィクスより、芳香環認識にあずかる残基の一つにV_<39>が浮び上った。39位は基質特異性の極めて厳密な動物酵素ではアラニン、大腸菌芳香族アミノ酸トランスアミナ-ゼ(AroT)ではロイシンで、39位の疎水性と芳香族基質に対する親和性が相関している。それを念頭に置いて39位をアラニン、ロイシンに置換したが、期待したほどの影響は得られなかった。AroTの大量生産系が作成できた。
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