立体構造についての情報が得られる大腸菌アスパラギン酸トランスアミナ-ゼに系統的なsiteーdirected mutagenesisを行った。変異酵素の大腸菌内大量生産系を確立し、精製変異酵素を用いて酵素化学的性質の変化を解析した。変異の対象は、大腸菌から高等動物の酵素にいたるまで共通に保存され、補酵素ピリドキサル燐酸(PLP)や基質である酸性アミノ酸と相互作用している残基を選び、それらの役割を調べた。 基質アミノ酸のαーHの引き抜きという段階が律速段階である。それを行う残基の第一候補と考えられていたLys258の変異酵素をつくり反応動力学や吸収スペクトルの解析を行ってそれを証明した。Asp222変異体の解析からは222位に負電荷が必要なこと、Tyr225変異体の解析からは、225位とPLPの3′ー0^ーの間の水素結合が必要で、この2つの残基が協同で働くことにより、PLPが基質のαーCの周辺から電子を引っ張り、αーHを解離しやすくすることによって触媒効率を上げていることを知った。基質ジカルボン酸の認識にあずかっているArg292や386はLysでは代用されないこと、292位を中性アミノ酸に置換するとジカルボン酸は結合しなくなり、中性アミノ酸に対する反応性が増大することがわかり、基質認識過程での292位の重要性が浮かび上がった。従来より反応過程に必須の働きをすると考えられてきたTrp140は、触媒反応そのものには必須ではなく、ジカルボン酸の認識に働いていること、Tyr70が炭素数4つのAspの認識には関係しないが、炭素数5つのGluの認識に関わっていることを明らかにした。 このような解析を通じて、本酵素の示す基質特異性や効率的な触媒反応を与えている分子設計を垣間見ることができた。
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