脳は生物が生きて行くための重要な情報処理を行うが、その機能は構造に制約される。特に脳は生後その機能を発揮するべく構造形成を行うことが特徴で、その過程を明らかにしないことには脳の機能が発現する機構は明らかにならない。形態形成にはclockやmapが必要であり、それは個体の中で自律的に形成される。これまで脳組織をin vitro で培養すると分化の方向性が失われ、構造形成を行わせることは不可能であった。一般に自己組織するには、拘束条件が必要である。本研究ではラット小脳の培養スライスに時空間的拘束条件を課すことによって、このin Vitroでの再構成が出来ることを初めて示した。これはほぼin vivoでの小脳形成と時間的にも対応していることが特徴である。分化という現象を細胞単位でみれば、分化誘発物質で処理することによりある種の分化を起こすことはできる。しかし個体全体でみれば、空間的及び時間的に調和して分化が進むためには、部分部分を関係づけることが必要である。空間的に限定したマイクロカルチャ-を行うだけでは分化進行しないので、全体を時間的に関係付ける必要があると思われた。本研究ではそのために細胞の代謝に起因する振動現象が重要であると考え、細胞の各種の同調剤で処理を行った。細胞分裂を同調させることが重要であることが判明した。つまり時間的な拘束が全体として形態形成を行う必要条件になっている。クロックが働くためには系全体が空間的に引き込むことが必要で、小脳の構造形成にはグリア細胞がその役割をしていることが示唆された。脳の構造形成におむるグリア細胞の働きはこれまで殆ど明らかになっていないが、本研究では二次情報伝達系としてグリア細胞由来のカルシウム振動が観察されたことにより、メカニズムに切り込む端緒が開かれたと言える。巨視的な拘束条件を変化させることで発生を制御出来ると言う事実の持つ生物学的意味は非常に大きい。
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