無随神経線維では軸索の周りをシュワン細胞が取り囲んでいるが、その機能は明らかでない。近年脳のグリア細胞との類推から様々な機能が推定されているが、生体の中にある状態に近い系での実験的な研究は始まったばかりである。本研究では実験的に扱い易いイカ巨大軸索とその周りのシュワン細胞とからなる標本を用いて、シュワン細胞による軸索外表面Kイオン濃度の調節機構に焦点を当て実験を進めた。 浸透圧勾配を細胞内とシュワン細胞層の外側である細胞外に与えると(シュワン細胞層の方が軸索膜に比して半透性が低いため)シュワン細胞ー軸索膜間隙への水の流入と流失に差が生じる。この結果、外向きの浸透圧勾配を与えた場合(細胞外液の浸透圧が細胞内液の浸透圧より高い場合)、シュワン細胞ー軸索膜間隙が拡大してKイオンの蓄積は減少し、逆向きの浸透圧勾配を与えるとこの間隙が縮小してKイオンの蓄積は増大する。又、細胞外液のKイオン濃度を予め高濃度にすると以後のKイオンの蓄積は増大する。つまりKイオンを加えるとシュワン細胞ー軸索膜間隙が狭くなるように見える。Kイオンの蓄積が多い標本では頻回刺激で発生する神経インパルスの発生パタ-ンが変化する。 現在までのところ、軸索外表面のKイオン濃度の調節はシュワン細胞層の物理的拡散障壁としての作用の変化(形態的な変化)に基づくと考えてよさそうである。これを検討するため、顕微鏡下での光学的測定としては神経線維表面の映像の変化の測定と神経線維表面からの光散乱強度の時間変化の測定との両方を行う予定である。現在、倒立顕微鏡の光源はコンデンサ-部を取り除けるように改造して、ステ-ジ上で実体顕微鏡を用いた細胞内灌流を行い、その場で高分解能の光学的測定と電気生理学的測定を行えるような装置を試作して調節中である。
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