研究概要 |
良質なタンパク質の単結晶を育成し構造解析に供するためには,要素解析として単結晶の完全性の評価を行う必要がある。そのために,モデルタンパク質として卵白ソゾチ-ムの斜方晶多形を用いて,35℃の水溶液から育成した斜状結晶中の格子欠陥像を,光散乱トモグラフ法を用いて観察した。点状欠陥・線状欠陥および面状欠陥が,成長方向と成長速度と相関することを示唆するように分布していることを見出した。これは,非破壊的な方法でタンパク質結晶内の格子欠陥を観察した.世界でも初めての試みである。その後の研究の展開として,成長条件を変えた場合の格子欠陥導入のメカニズム,さらには欠陥分布とX線回折条件との関係を明らかにする必要がある。一方,新規に結晶化を試みたタンパク質として,毒素タンパク質,海藻レクチンおよび植物培養細胞分泌タンパク質をとりあげ,その精製と結晶化を試みた:海藻レクテン(Hyーpnin A)は,海藻を大量に採集し,数mg/1kgの収率で最終的に10mg前後のタンパク質の集積を行った。植物(カボチャ)培養細胞から分泌されるタンパク質(PRーProtein)は振とう培養による2週間の培養で生産され,その後遠心分・硫安分画を経て2種類のクロマトグラフ法により精製され,収量は10mgであった。毒素タンパク質(lepidopteran toxin)はすでに単離・精製が行われている約20mgのものを用いて結晶化を行った。3種類のタンパク質ともに,4℃で蒸気平衝法(ハンギングドロップ)で,PHや析出剤を変えて結晶化を試みた。しかしながら,いずれもアモルファス状の沈澱物が得られた。アモルファス形成に近い溶液条件で繰り返し結晶化を行っているが,まだ結晶化には至っていない。今後の純度向上と,析出剤をはじめとする結晶化条件の吟味が必要である。
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