高等植物光化学系I反応中心複合体に1分子近く強固に結合したフィロキノンを他の機能を損なうことなく抽出し、再構成する方法を開発し、動物ではビタミンK1として血液凝固に働くフィロキノンが光化学系I反応中心の2次電子受容体として働く事をあきらかにした。これにより、植物、細菌のもつ全ての光合成反応中心でキノンが2次電子受容体として働くことがあきらかになり、光合成反応中心全体を通じてのその起源、進化、機能と構造の検討が可能になった。本研究でも反応中心構造の比較をおこなった。本研究では、光化学系I反応中心のフィロキノンを抽出除去した後、別種のキノンあるいは、キノン類似化合物をフィロキノンの結合部位に導入した。このような再構成系でもキノンは電子受容体として働く事が確認され、その反応様式は各キノンの酸化還元電位と構造により異なることがあきらかとなった。この結果構造の異なる化合物も、本来のキノン同様に反応すること、導入化合物の結合特性の違いから複合体内部のキノン結合部位の構造が推定出来ることを示し、反応中心I複合体蛋白がキノンに与える反応環境の特性を明らかにした。光化学系II反応中心についてもキノン置き換えによる同様な研究を行った。これにより、様々な人工化合物を蛋白内に導入し反応させ得ることを示し、蛋白質内反応環境を利用して有機溶媒中では困難な反応を実現できる実験系を開発した。この系は更に多くの物質の反応環境として利用出来るもので、生物の光合成と合成化合物による人工光合成の試みをつなぐ情報を与える。光化学系I反応中心はキノンの他に鉄硫黄センタ-を3種もつが、これらの鉄硫黄センタ-についても、その構造と特性、選択的分解法の確立、キノンとの反応を極低温EPR測定により明らかにした。
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