研究概要 |
研究の第1年目に当る本年度は、当初の計画に沿って、ヘラクレイトス(以下、Hと略記する)を中心とする初期ギリシア哲学研究に重点をおくとともに、それとの関連・対比において、プラトン哲学に見いだされるロゴス性の新局面の解明についても、一定の見通しを得ることに努めてきた。具体的には、まず第一に、最近のH研究(主としてG.S.Kirk,Heraclitus,1954以降)の主要な成果を全面的に再検討しつつ、可能なかぎり精確なH理解を得ることに努めた。その作業によって明らかになったと思われる主要な点をまとめるならば、(1)「自然学者」としてのHは、ミレトス派の成果にほぼ全面的に依存しつつ、世界観的な意味付与を徹底して行なうことによって新生面を開いた。(2)「万物流転」の思想はやはりHの特質の一つとして認められるべきだが、その意味するところは、プラトン以降の後代の解釈とは異なり、 「変化を通じての統一」を志向するものであった。(3)上述の思想史的位置と関連して注目されるべきHのロゴス概念を究明することによって、この概念がH独自のものであること(たとえばピュタゴラスとの関連などは想定しえない)、その意味中心は「言葉・言語・言論」ということにあること(「理法・割合」あるいはkirkの言う ‘measure'は、あくまで派生的なimplicationと見るべきであろう)が明らかになった。(4)Hの最も顕著な哲学的意味は、世界解釈における「言語」(ロゴス)の重要性を明確に認識した点にある。(5)その点と表裏をなす事柄として、Hにおけるきわめて卓越した言語表現に注目し、その特質を極力明確にとらえることに努めた。 今後は、Hと言語活動・言語認識の問題をさらに究明するとともに、パルメニデス、プラトンをも視野の中心に収めつつ、より広汎な視野から、ロゴス概念の展開の把握に努めたい。 なお図書購入、資料収集などは当初計画通り順調に進捗した。
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