第2年目たる本年度は、当初の計画のとおり、研究の重点を、ヘラクレイトスを中心とする初期ギリシア哲学研究から、漸時プラトン研究へと移行させていった。ヘラクレイトスに関しては、前年度の成果をふまえつつ、その言語表現上の革新性を、より具体的に剔出・把握することに努め、この作業を通じて、ヘラクレイトス哲学の中核が彼のロゴス概念にあることを再確認するとともに、その際ロゴス概念の内実がいかなるものであったのかについて、よりいっそう明瞭にとらえることができた。この点の解明にあたって、特にKahnのヘラクレイトス研究から示唆を受けることが多かったが、さらに、最近入手した初期哲学に関する論文集(Robb編)所収の諸論考は言語の観点を重視しており、成果の取りまとめに当っては、本書の諸論点にも十分に対処することを期したい。プラトン哲学に関しては、当面主として初期対話篇におけるソクラテスの「対話」を支えるロゴスの役割を明確にすること、および『メノン』『パイドン』などにおける想起説の再検討に重点をおいた。特に前者との関連において『クリトン』の議論構造の見直しが一つの焦点として浮上し、とりわけBrickhouse&Smithによって近年発表されつつある関連諸論考の批判的検討を通じて、国法に対するソクラテスの対処を再吟味する作業を集中的に行なった。その結果として、彼らの提示する遵法主義的ソクラテス像は、その精緻な実証的立論にもかかわらず、必ずしも適切とは言いがたく、むしろより根本的な「ロゴス」に則して行為するソクラテスのあり方が再確認しえたものと考える。またこの問題との関連において、前5世紀後半におけるギリシアの法思想の解明が新たに必要な課題となり、プロタゴラスおよび前5世紀末の過激思想の検討にも目下取り組みつつある。なお、研究経費の使途に関しては、予定の図書購入、資料収集など順調に進捗し、十分研究に活用しえている。
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