所期の研究の最終年にあたる本年度の前半は、主としてプラトンの中期・後期著作におけるロゴスの問題を、ディアレクティケ-(哲学的は話法)とアナムネ-シス(想起)の相関性を軸にして考察に努めることともに、前年度からの継続課題として、前5世紀末のアテナイにおけるソフィスト的な過激思想の解明にも力点をおいた。後者については、特にアンティポンとトラシュマコスの立場を支えるピュシス概念の検討を通じて、プラトン哲学の背景をなす問題情況の最も重要な側面を再確認することができた。また本年度後半においては、主としてこれまでの研究成果のとりまとめに努めた。まず第一には、ヘラクレイトスにおけるロゴス概念の確立を支える思想史的背景とその主要モチ-フの解明に論点をしぼったまとめを行なった。今回の研究結果として、従来の初期ピュタゴラス派の影響下にヘラクレイトスのロゴス概念と位置づける考え方に批判的な立場をとり、むしろクセノパネスらとの関連に目を向けながら、その新たなロゴス観を、言語活動の内実の根本的転換と結びつけてとらえた点が大きな特色となろう。第二に、プラトンに関しては、中期イデア論とディアレクティケ-の問題解明と呼応させつつ、『国家』における<線分の比喩>の構造の問題と、主として後期著作における「分割(ディアイレシス)」の手続に焦点を当て、それらに対処する上で基本的と思われる若干の論点でとりまとめを行なった。以上の成果の一部は、本年度の京都哲学会で口頭発表を行なうとともに、いずれも研究成果報告書に収載する。また近刊予定のR.S.ブラック『プラトン』邦訳(『第7書簡』訳および解説を含む)も、本研究と関連するところが大きい。なお、研究経費の使途に関しては、ほぼ当初の見込のとおりであり、購入図書や収集された資料は、本研究の充実にとって、帰与するところがきわめて大きかった。
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