古代ギリシアにおけるロゴス概念をめぐる所期の研究は、まず第一に初期ギリシア哲学の中でとりわけ(そして初めて)「ロゴス」が強調的に語られるヘラクレイトスに焦点をあて、彼の哲学の諸相とその背景をなす思想史的・文化史的動向をたどりつつ、彼のロゴス概念の成立過程と、その意味の広がりを支える核心的内実を明らかにすることにつとめた。第二の重点課題は、プラトン哲学におけるロゴス性を最も根底において裏付けているソクラテス的な「対話」構造のもつ意味と、その自覚的発展としての「ディアクレティケ-」(哲学的問答法)の特質を明らかにすることにあった。これらの課題を遂行するための研究は多岐にわたり、初期ギリシア哲学およびプラトン哲学の全体的見直しが必要とされたのみならず、さらに、ホメロスから抒情詩をへてドラマに至る古代ギリシア文学の潮流およびヘロドトスやヒッポクラテス文書などにも幅広く目を配らなければならなかった。 研究のとりまとめにおいては、まずヘラクレイトスにおけるロゴス概念の確立を促した思想史的背景とその主要モチ-フに論点をしぼり、結論としては、クセノパネスなどとの関連を重視しつつ、言語活動の内実の根本的転換という視点を強調する論旨をとった。またプラトンに関しては、中期イデア論におけるディアクレティケ-の位置づけと呼応させつつ、『国家』における〈線分の比喩〉の構造を明らかにすることと、主として後期著作における「ディアイレシス」(分割)の手続きを解明することに焦点を当て、それらに取り組む上で基本的と思われる若干の問題をまとめることにつとめた。 多岐にわたる課題のうちには、なお解明を要する諸点も多い。今後はとりわけプラトン研究を継続するとともに、より広汎かつ総合的な視野に立ったロゴス概念の展開の追跡に努めたい。
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