1.まずスコトゥスの認識理論全般の基本的性格をあきらかにするための手掛りとして、認識活動を営む主体としての精神ないし霊魂についてのかれの立場に注目したところ、トマスからオッカムに到る霊魂論の展開(私はそれを形而上学的霊魂論の崩壊として捉える)のなかで、スコトゥスが独自の位置を占めていることがあきらかになった。すなわち、トマス霊魂論を構成する二つの基本命題(a)人間霊魂は身体の形相である(b)人間霊魂は固有の存在によって自存する、がオッカムにおいては共に斥けられているのにたいして、スコトゥスは(a)は理性によって認識・論証が可能であるが(b)は不可能であるとして斥けた。これは、スコトゥスにおいては、(トマスにおけるごとく)霊魂についての形而上学的認識にもとづいて形而上学的認識理論を構築することはもはや不可能であるが、オッカムにおいて見られるような(経験にもとづく)新しい認識理論の構築の試みはいまだ為されていないことを意味する。いいかえると、スコトゥスはアリストテレスートマス的認識理論を鋭く批判したが、基本的には形而上学的認識理論の枠組を受けいれた、といえる。 2.スコトゥス抽象理論は知的認識の成立を解明する試みであるが、トマスにくらべて感覚的認識にたいする知的認識の独立性を強調しているところに特徴がある。 3.スコトゥスの認識理論において抽象理論の占める位置はトマスにくらべ著しく後退している。オッカムにおいてはトマスースコトゥス的な抽象理論は完全に斥けられる。
|