本研究の目的とするところは、漢訳された仏典の内、難解なものを読解するための基礎的研究作業として、特に法華経をケ-ス・スタディとして取り上げ、その梵文原典と漢訳経典の言語レベルでの精査な比較検討を行うことにある。その方法として、今後文献レベルでの比較研究がコンピュ-タ-を利用したものとなるであろうことを見込み、比較対象文献、即ち梵文法華経、正法華経、妙法蓮華経の各テキストをデ-タベ-ス化することを当面の作業目的としている。本年度は、梵文法華経の基礎デ-タとして荻原雲来校訂『改訂梵文法華経』を入力中であり、竺法護訳『正法華経』、鳩魔羅什訳『妙法蓮華経』は『大正新脩大蔵経』をテキストとして入力している。そのうち『妙法蓮華経』は校正を済ませ入力を終了した段階まで進行している。 又、梵文の各種写本用語の検討作業を通じ、『法華文化研究』第16号掲載予定の「東大写本No.102(1)と薬王菩薩本事品」に詳論した如くの研究成果をも得た。その概略は次の如くである。 東大写本(松濤目録)No.102の中に、Kirti-visayavadana-parikarma-katha(以下KVPKと略す)が記録されている。目録に記されているように、KVPKは『妙法蓮華経』の薬王菩薩本事品第23(『正法華経』薬王菩薩品第21)の部分を含んでいる。しかしながら薬王菩薩本事品の内容をすべて含んでいるわけでなく、写本の後半は、法華経の文とは異なったものが続いている。法華経では重要な事柄である。「付属」や「法華最第一」に関わる箇処が欠けており、また薬王菩薩本事品は苦行を行じる力によって人人を教化し流通することを目指しているのに対し、KVPKは供養の功徳を常に高揚するところに目的を置いているように見られる。以上の事柄を含め、より詳細な検討を加えていきたい。
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