本研究は、北奥羽と沖縄地方を主たるフィ-ルドとして、民間巫者にみられる複雑な「修行」の形態やその評価、修行観などを系統的に整理し、そこに展開される救済の機能や構造を明らかにすることを課題としている。 初年度においては、まず民間巫者とその依頼者・信者に対する集約的なフィ-ルド・ワ-クを行ない、彼らの「修行」の実態や、修行観に関する基礎的デ-タき収集に専念した。 北奥羽地方については、カミサマ、ゴミソなどとよばれる民間巫者とその信者を対象に、青森県の津軽地方から秋田県の北部地方を重点調査地域として、8月から1月にかけて、数度にわたる実地調査旅行を行なった。そこでは、具体的な修行活動(滝行、修行登山、祭典参加、寒修行など)を採録・記録するとともに、彼らの修行観について、用意した調査項目にもとづいて聴取調査を行なった。 沖縄地方については、10月3日から11月10日まで1ヵ月余に及ぶ現地調査を実施した。本島中部・与那城村の屋慶名・平安座地区をメインフィ-ルドとして、そこで活動する十数名のカミチュ、ユタ、ムヌシリ、クディなどとよばれる巫者たちについて、上記の北奥羽と同種の調査を行なった。さらに、当該地域に流入する外来宗教(キリスト教系・仏教系の各教団)の「修行」的行為にも注目した。今回の調査では、石垣島にもフィ-ルドをのばし、ツカサとよばれる伝統的巫者との面接を行なうことができた。これらの調査で得られたデ-タから、「沖縄では総じて《運命の文化》が卓越しており、《修行の文化》が希薄である」という当初の仮説は、ほぼ立証することができたと考えている。 また、巫者論、修行論に関する文献収集のため、国立国会図書館、筑波大学、東北大学などに出張した。
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