本研究は、わが国の民間巫者にみられる複雑な「修行」の形態やその評価、修行観などを、系統的に整理し、その比較検討を通して、巫者とそれをとりまく依頼者・信者によって共有されている世界観や救済観、さらにはそこに展開される救済の形態や構造を明らかにすることを目的とした。そこでは「修行」が教義的宗教の理念と土着的習俗とをつなぐ重要な位置にある、との認識に立ち、これを民俗宗教研究のひとつの突破口として捉えた。また、「修行」を無条件に高等宗教の理念にあてはめたり、土着の現世利益的な実践に還元するのではなく、両者の複合面における重要な接点として把握する、という立場を堅持した。主たるフィ-ルドには、北奥羽地方と沖縄地方を選んだ。従ってここでの民間巫者とは、具体的には北奥羽のイタコ、カミサマ、沖縄のユタ、ムヌシリ、カミンチュ、クディなどを指すものとする。 最終年度には91頁から成る報告書を作成した。以下、その概要を記す。「序論」では、民間巫者における修行を宗教学的テ-マとして取り上げる意議と課題を論じた。第一部〈民間巫者論における「修行」の問題〉では、従来の民間巫者研究の批判的総括を試みるなかで、あらためて修行のもつ重要な役割を明らかにした。第二部〈民間巫者の人生史と「修行」の文化〉では、本研究の中心となった青森県の津軽地方と沖縄地方の民間巫者を、それぞれ2名ずつ取り上げ、その人生史の検討を通して、両文化における「修行」の捉え方の差異に注目した。全体を通して、現象学的な「修行」の概念規定として「身体的・行動性」「主体的・自発性」「段階的・定型性」の指標を取り出し、ヤマト文化圏と琉球沖縄文化圏との差異を、「修行の文化」と「生まれの文化」との対比として捉える新たな視点を提起することができた。
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