研究概要 |
本年度は研究対象となる集団の数をふやし、比較研究の巾を拡げた。昨年度は修養団捧誠会を主たる対象として、インテンシブな調査や文献研究を行なった。今回は対象を天理教,PL教団,崇教真光,霊法会,世界救世教などの新宗教教団や報徳運動,PHP研究所,株式会社ダスキンなどの修養道徳団体・企業にも拡大した。修養団捧誠会は昭和20年代,30年代に発展した神道系の教団であり、そのル-ツは天理教であった。今年度の研究では、天理教の「心なおし」と修養団捧誠会の「心なおし」の共通点と相違点について明確化することができた。また、修養道徳を重んじているという点で似ているPL教団との異同も明らかにできた。さらに、修養道徳よりも国家体制のあり方や神秘現象により大きな関心をよせる世界救世教や崇教真光、また仏教系の教団である霊法会との比較も行なった。これらの教団では修養道徳への関心がやや低いが、それでも修養道徳は教えと実践の重要な一角を占めており、その構造は基本的によく似ている。さらに、報徳運動やPHP研究所やダスキンのように宗教をそれほど表に出さず、人生論や職業倫理、経営倫理を提示する集団の思想構造も共通であった。昭和初年から昭和60年代に至るまで、新宗教から道徳的経営を掲げる企業まで、きわめて類似した道徳意識と道徳実践が存在することが明らかになった。一方、これらの集団の道徳性の相違点の比較という点では、いくつかの主題がうかびあがってきた。たとえば集団の調和と個人の自律性の関係をどのように捉えているか、社会的な闘争や競争と個人の成功の関係をどのように捉えているか、男女の役割分担をどのように考えているかなどの点が、比較の基軸として重要になるであろう。
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