研究概要 |
本年度において実施した実験的研究の主なねらいは、刺激の反復提示により生じる反応馴化に関与する機構を推定することにあった。主として、末梢性の皮膚温度要因に関する実験を重点的におこなった。その他、認知的要因についても、新しい試みである脳波測定を通して、前年度の研究をさらに発展させている。 1.痛反応時間法で得られる閾値時間には、刺痛感発現からキ-押しまでの痛反応時間が含まれることに注目した。これは本来の閾値時間とは区別されなければならないア-チファクト要因であることを指摘した。つまり、この時間内に皮膚温の上昇があるからである。実験においては、熱刺激を負荷する腕と反対の右前腕部より導出する筋電図を利用した。その結果、反応時間は従来予想されていた長さよりはるかに短いことが判明した。従って、このtimeーlag中に上昇する温度変化は、反応馴化により生じる変化を説明できないことが分かった。 2.上記の皮膚温度要因と関連する末梢血流速を検討した。輻射熱刺激提示の条件は1.1と大略同じであった。刺激の最終到達温度を43,45,48,50℃の4種類とした。刺激負荷部位近傍の皮膚温は、刺係の反復提示中に大きく変動はしなかった。血流速は、比較的低い輻射熱刺激強度では一過性に低下した。この結果からは、血流速が痛覚閾値を高める主要な要因とは考えにくかったが、現在、測定部位を変えて、再検討している。 3.刺激予期事態での輻射熱刺激反復の効果を、脳波指標を用いて調べた。やはり、反応馴化にともなう脳波変化が見られている。従って、この効果には認知的要因が強く関与していると判断されるが、これは新しい試みでもあるので、結論は今後の詳細な解析を待たなければならない。
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