本年度の研究計画に基づき実験分析を行った結果、視覚誘発発電位(VEPs)のオン・オフ反応から時空間的な特性を見いだし、モデル化することができた。以下に、その研究概要を示す。 短形波パルス光に対するVEPについて二元過程モデルを適用し、心理学的対件の説明のために「興奮性電位」(excitation potential)を提唱した。視覚で2°と5°の円形の刺激光を用い、3水準のコントラスト(1.0、2.2、3.4)および提示時間、10、50、100、200msの条件設定をした。後頭中心部(Oz)からの典型的なVEPを、オン・オフVEPのそれぞれの興奮・抑制成分とに分解し、その12のパラメ-タをフレッチャ-・パウエルの最適化法で決定した。そののち、これらのモデル・パラメ-タを刺激条件をを説明変数とした重回帰分析により予測推定した。この手続きを数回繰り返し、全体に適合するパラメ-タを推定していった。 その結果、モデル波形は原波形によく適合しており、このパルスVEPは基本的なオン・オフVEPを線形に重畳したものとして表現できることが示された。興奮性電位は、オン・オフVEPの興奮性成分を合成した波形である。この電位の振幅は、10か100msの提示時間で時間および空間的な加重効果を示した。これは、それぞれ視知覚でのブロックの法則、リッコの法則に対応する。さらに、また100msの提示時間で最大値をとる促進効果がみられた。これは、ブロ-カ効果に対応するものである。 これらの特性は、われわれの視覚減少と深く結びついており、時空間の補完機構の基礎となる性質である。このように、オン・オフVEPの二元過程モデルを基礎とした「興奮性電位」は、従来のVEP研究と視覚研究に新しい視点を与えるものである。
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