研究概要 |
幼児において斜線構成が困難な原因について、Piagetの説にもとづいたとされる論理操作仮説が重視されてきた。しかし、平成2年度までの研究で、論理操作仮説の妥当性を検討したところ,その仮説は支持されなかった。そこで、本年度は以下のような3つの研究を行った。 1.論理操作仮説を再度検討するため,Fryeらの研究方法を改善した方法で検討した。すなわち,被験児が手元で水平か垂直を構成した時は視覚情報として斜線が,逆に,斜線を手元で構成した時は水平か垂直の視覚情報が与えられるようにした。その結果、いかなる事態でも斜線を構成することは困難であり、仮説の妥当性を裏付ける根拠が否定された。実験結果は論理操作仮説よりも、構成活動で有効な情報を迸択する能力が大きく関与していることを明らかにするものであった。 2.組合せ課題の難易度を規定するうえで、分割線の斜めの要因がどのように作用しているのかについて検討した。課題に、ニキ-チンの『四角づくり』課題を用いたところ,課題の難易度を規定している要因に、「分割小片の数」,「接合面の数」,「接合面に含まれる直角の数」の他に,「斜線の数」が大きな規定因になっていることが明らかになった。また、幼児の構成活動を援助する条件についての検討を行ったところ,幼児は構成すべき物の視覚的イメ-ジをもつことが困難なこと、また、それを具体物に移しかえることが困難なことが認められた。 3.三次元空間に斜線を構成させる課題を行ったところ,幼児では不可能であったが,7歳頃の子どもでは顕著な発達が認められた。これは、この時期の子どもが、特定の次元にねらいをつけて構成する方略から,視点を移動して構成できるようになるためである。また、三次元空間に正確に斜線構成できるのは、9〜10歳の子どもであり、この頃に三次元的な視空情報が統合できるようになることが明らかになった。
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