研究概要 |
筆者の従来の研究から、言語発達遅滞児の中でもとりわけダウン症児は、いわゆる擬声語や擬態語(onomatopoeia,オノマトペ)を伴った言語情報を用いることによって交信機能を高めているとの知見を得た。そこで、ダウン症児の交信行動においてオノマトペが効果的に利用される原因およびその認知的背景を探るために、自由遊び場面におけるオノマトペを分析した。ダウン症児におけるオノマトペの有効利用の原因について、音韻論、意味論そして語用論的な観点から仮説的な論究を行った。 1.意味論的な観点1)オノマトペを構成する音は、喃語との類似性が高いため、構音に問題を持つダウン症児にとって構音が容易であるという特徴をもつ。2)オノマトペの音韻構造は、畳語形成の音連鎖を持つものが多く、冗調性が高いため、ダウン症児にとって記憶保持が容易で音声模倣が行い易いという特性がある。 2.意味論的な観点1)オノマトペには音と意味の有契的な関係、つまり音象徴が存在するため、音声から直接、意味を抽出できるという特徴を有する。したがって、記号論的な関係しか存在しない一般言語に比べて、オノマトペはダウン症児にとって意味理解の容易な言語であるといえる。2)1の特徴のために類義語のオノマトペを容易に生成できるため、音声による意味世界の表出範囲を広げることができる。 3.語用論的な観点1)ダウン症児間のコミュニケ-ションにおいてオノマトペが介在する場合には、疑似コミュニケ-ションの形態をとることが多く、意味のやり取り以前に対人関係を保持するためにオノマトペを利用している。3)コミュニケ-ション場面で用いられるオノマトペは、場面依存的な特徴があり、話し手と聞き手が共有する場の特性や意味の制約を利用して、発話意図の伝達可能性を高めている。
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