発達水準の異なる5名のダウン症児に対して、オノマトペを用いた伝達手段の有効性を検討した。対象児が既に保有している語彙とオノマトペを組み合わせて文を構成し、対象児に対して聴覚的に提示した。そして、その際の対象児の反応をVTRに収録し分析を行った。その結果、非言語的行為と既有の語彙の組み合せによる伝達に比べて、上記の伝達手段に対する音声と行為による反応性が極端に高くなった。提示文が指示する意味の理解度をチェックしたところ、意味理解がかなり促進されていることがわかった。さらに、オノマトペ内包文に対しては明らかにオノマトペもしくはオノマトペ様音声による応答が激増する特徴があった。慣用的なオノマトペの音構成をなさない音声が多発していたが、それらが指示する対象を明確に把握することができなかった。そこで、特定の意味を指示していると思われるオノマトペ様の音声がコミュニケ-ションにおいてどのような役割を担っているかを明らかにするために、日頃身近に接する機会の多い母親、保母、そして担任教師などに上記の音声が指示する意味対象を推定させた。その結果、著者らは殆ど了解不能であった音声が実は的確な意味対象を指示していることがわかった。したがって、表面上は音声によるコミュニケ-ション能力が極めて乏しいと思われているダウン症児においても実際はかなり豊かな音声表現をしていることがわかった。こうした結果に基づいて、コミュニケ-ションの一方の担い手である他者、とりわけ親や教師などの日頃身近に接する人達のダウン症児の音声に対する感度を高める方法(例えば、インリアル:InterーReactive Learning and Communication)などを参考に包括的な言語指導プログラムを検討中である。
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