神園(1988)は言語発達遅滞児の中でもとりわけダウン症児は擬音語・擬態語(オノマトペ)を伴った言語情報を用いることによって交信機能を高めているとの知見を得た。そこで、ダウン症児の交信行動においてオノマトペが効果的に利用される原因およびその認知的背景を探るために、自由遊び場面におけるオノマトペを分析し次のような知見を得た。1、音韻論的側面 1)オノマトペを構成する音は喃語との類似性が高いために、構音に問題を持つダウン症児にとって構音が容易である。2)オノマトペの音韻構造は畳語形式の音連鎖をもつものが多く、冗長性が高いためダウン症児にとって記憶保持が容易で音声模倣が行い易い。2、意味論的側面 1)オノマトペには音と意味の有契的な関係、つまり音象徴が存在するため、音声から直接、意味を抽出できるという特徴を有する。したがって、記号的な関係しか存在しない一般言語に比べてオノマトペはダウン症児にとって意味理解の容易な言語である。2)1の特徴のために類義語のオノマトペを容易に生成できるため、音声による意味世界の表出範囲を広げることができる。3、語用論的側面 1)ダウン症児間の交信活動においてオノマトペが介在する場合には、疑似コミュニケ-ションの形態をとることが多く、意味のやり取り以前に対人関係を保持するためにオノマトペが利用される。2)筆者らには、殆ど了解不能であった音声が日常身近に接している他者には的確な意味対象を指示しているものとして受容され、対人関係によってコミュニケ-ション効率は大きく異なる。3)コミュニケ-ション場面で用いられるオノマトペは、場面依存的な特徴があり、話し手と聞き手が共有する場の特性や意味の制約を利用して発話意図の伝達可能性を高めている。 以上の知見に基づいて、ダウン症児に対するオノマトペを利用した言語指導プログラムを検討中である。
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