本研究の主な目的は、帰属過程の中心である原因帰属と特性推測の関係について、認知心理学的な実験手法を用いて検討することであった。特に、原因の帰属が特性推測のための前提になるという、従来の理論での暗黙の仮定が妥当かどうかを、反応時間の分析を通して吟味し、帰属の推論過程における時間的順序の考察を試みた。 この目的のために、まずパ-ソナル・コンピュ-タによって統制した刺激の提示と、反応のキ-入力、及び反応時間の測定のための方法上の準備を行った後、言語記述を用いた以下のような実験を実施した。提示した言語情報は、刺激人物の年齢と職業等の説明、刺激人物の行った行動、周囲の状況の記述、の3分から成り、ほぼ同じ長さになるように配慮されている。各刺激情報の提示後、被験者は、行動の原因帰属、及び刺激人物の特性推測を含む5種類の質問に、キ-入力によって回答し、その反応時間が測定された。さらに実験終了後に、予告なしに再生テストを行い、刺激文の記憶の程度を確かめてある。今回の実験では、特に、原因に関する帰属判断がその後の推論過程を大きく左右すると考えられる。促進的状況のケ-スのみを取り上げた。 その結果、今回の実験では、原因帰属の質問と特性推測の質問に対する反応時間の間には、全体として有意な差が認められず、原因帰属の方が判断に長時間を要するという、Smith&Miller(1983)が見いだした傾向は追認されなかった。記憶に関しては刺激の提示順序の効果が見られ、反応時間との関係は必ずしも一義的でなかった。全般的に見て、原因帰属に関する判断の一部が被験者にとってやや困難であることをうかがわせる徴候はあったものの、各種の判断に要する時間は、刺激状況の種類や具体的な質問のしかたによってかなり変動しており、今後の研究では、刺激状況の緻密な分類と、より精度の高い反応時間測定法の整備が必要だと考えられる。
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