長期記憶に貯えられる情報は、次の検索に備えて系統的に整理されている。これらの情報を体系づける際にカテゴリ概念、テ-マ等、の概念が有効であることを示した平成元年度の研究結果に基づいて、平成2年度はプライミング手法を用いて、種々のプライムに対する反応時間の変化から言語記憶の構造について検討した。先ず、カテゴリ名及びそのカテゴリ内で典型性の程度の高い成員をプライムとして、典型性の異なる各単語間及びカテゴリ名との関連性を測定することによって、上位概念が下位概念の記憶に及ぼす影響の諸相について検討した。その結果、元年度の再認における正答率によっては相違のみられなかったにも拘らず、反応時間(RT)を指標とした本実験においては、カテゴリに統一性をもたない名詞を提示した統制群に比べて、単一カテゴリからの名詞群に限定した概念群のRTは有意に小さく、名概念の検索がより容易であることを明らかにした。各単語を1つずつ検索するよりも同一グル-プ内の単語として各名詞を検索する方が全体の検索時間が短縮されることから、カテゴリ概念が想起を効率化していることが示唆される。さらにカテゴリ名とカテゴリの典型例をプライムとして提示し、各プライムの再認に及ぼす効果について検討した。その結果、新項目が旧項目に含まれていないと正しく反応するdifferent反応においてはとくにプライミングの効果が大きく、単一カテゴリに属する名詞群の想起が有意に促進されるが、一方、新項目が旧項目に含まれていると正しく反応するsame反応においては全条件を通じて有意差はみられなかった。またプライミング効果は各概念の上位概念内での位置、典型性の程度によっても大きく影響されることが示された。
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