従来の筆者らの研究により、ヒトのレム睡眠リズムは、中途覚醒によって一旦リセットされ、再入眠後にレム睡眠リズムは新たにスタ-トすることが明らかになった。再入眠後のレム睡眠リズムは、通常のレム潜時をとる場合(nonーSOREMP)と、入眠直後にレム睡眠が出現する場合(SOREMP)とに二分される(Modified Reset仮説)。後者は入眠時レム睡眠期といわれ、ナルコレプシ-患者に特有なものとされてきたが、健常者でも、中途覚醒法によって容易にSOREMPが出現する。本研究の目的は、中途覚醒法でSOREMPを出現させ、その出現率がどんな要因によって変化するか検討し、レム睡眠リズムの発現機序を明らかにすることであった。 平成1年度は睡眠周期内のどの時点で覚醒させるかで4条件設定した。その結果、第2睡眠周期で中途覚醒させた場合、覚醒までのノンレム睡眠の持続時間が長くなるにしたがい、再入眠後のSOREMPの出現率は有意に増加した。平成2年度は、SOREMPの出現率に影響する要因として、サ-カディアンリズムの位相を取り上げた。その結果、SOREMP出現率は第2周期(深夜)より第4周期(明け方)の方が有意に高く、体温などに認められるサ-カディアンリズムがSOREMP出現率にも影響することを示した。平成3年度は、SOREMP出現時の生理的背景を検討する目的で、直腸温をとりあげ検討した。また、SOREMP出現時の主観的体験を内省報告、質問紙、及び生理的指標により検討した。まず、SOREMP出現時の直腸温は、非出現時より低い傾向があり、生理的背景の違いが示唆された。つぎに、SOREMP出現時の主観的体験を聴取したところ、夢見の体験のほかに、入眠時幻覚や睡眠麻痺を体験した報告があった。このことは、健常者でもSOREMP出現時には、ナルコレプシ-患者の症状と同じ現象が現われ得ることを示している。本報告書は平成3年度の知見を中心に記述している。
|