終末期医療におけるコミュニケ-ションの研究において、患者は医師看護婦、患者家族から病気についての真の情報を秘匿され、病棟社会のなかで社会的孤立を強いられがちであることが論じられることが多かった。当研究の前半段階の研究では、インフォ-マルな情報伝達経路から患者の大半が自分が癌であることも認知していく「情報補給」の過程が存在することが示唆された。しかしその後、病院の方針転換により、新薬の臨床試験が対象となる患者に限り、原限として癌であることが本人にも告知されることになった。 この方針転換の9ケ月後に実施したアンケ-ト調査の結果からは、原則告知の新体制下に置かれているにもかかわらず、医師から癌であることを告げられたという自覚をもっている患者は、医師がそうであるに違いないとみなしている数よりもかなり少なく、全体の37.8%にすぎないことが明らかとなった。このことは、「告知が原則である」という組織のフォ-マルな規範への患者の信頼(ないし同調)が、規範に従った医師の行為の結果としての50%強の告知率と上記の数値との間の差を生ぜしめ、また他方では、別の偽の病名を主治医が告げる「善意の嘘」を患者が詮索せずに、告げられたままの病名を信じ続ける態度の固定化を促す結果となっている、と理解できる。 更に、数量化理論第II類の手法にしたがってデ-タを分析したところ、癌を完全に告知されていると自覚をもつ患者の方が、そうでない患者よりも、また自分の病名について熟知していると考えている患者の方が、そうでない患者よりも患者間のコミュニケ-ションに対して積極的であることが明らかとなった。しかしながら、他の患者は情報源として利用はされても、患者自身の意志決定に重要な影響を及ぼすであろう相談相手としては積極的に選択されないことも明らかとなった。
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